スマホの内線化といえば、無線LANや4G/LTEを活かした形での、いわゆる「SIP内線」としての内線化がまっさきに挙げられます。
しかし、次に挙げられるようなデメリットを完全に解消することが難しいため、スマホの普及が進んだ今でも、「SIP内線」としてのスマホの内線化は、実用的とはいいがたい状況です。
1. スマホ「SIP内線化」のデメリット
1-1. スマホの機種の違いによる、SIPクライアントソフトの動作検証が不完全
スマホはご存知の通り、大きく分けて次の2種類のOSに分けられます。
- iOS
- Android
iOSに関しては、機種はiPhoneシリーズのほぼ一択に限定されるため、基本的にはiOSのバージョンを気にするくらいで済みます。
一方Androidですが、各社からさまざまな機種が発売されているため、OSと機種の組み合わせも多岐にわたります。
そのため、組み合わせによっては、SIPクライアントソフトが正常に動作しないこともあります。
SIPクライアントソフトを提供するメーカーも、すべての組み合わせを検証しているわけではないからです。
1-2. ネットワーク環境の構築費用がかかる
スマホをSIP内線として使うためには、ネットワーク環境をととのえなければなりません。
社内でスマホを内線として使うときは、無線LAN(Wi-Fi)環境を構築するケースが多いです。
音声通話で無線LAN(Wi-Fi)を利用するときは、音声パケットの通信を優先するためのQoSの設定が欠かせません。
少なくともQoSの設定が可能な無線LANアクセスポイントが必要となるわけですね。
社外でスマホを内線として使うときは、4G/LTE網を経由することになります。
社外から社内のビジネスフォンに内線接続するためには、社外のスマホからVPN接続もしくはDDNS接続が必要となります。(ヤマハのネットボランチなど)
社外のスマホから社内に安定した接続をするために、ビジネスフォン側には固定のグローバルIPアドレスを契約することが推奨されています。
固定IPがむつかしいようでしたら、DDNSでの運用も可能ですが、固定IP+VPNの組み合わせに比べると、通信の安定性が落ちるため、スマホの内線通話に影響が出るかもしれません。
というわけで、ビジネスフォン側には安定したVPN接続ができる環境の構築が望ましいですね。
1-3. SIPクライアントソフトはバッテリー消耗がはげしい
スマホをSIP内線として使うためには、SIPクライアントソフトが必須です。
しかし、このSIPクライアントソフトはバッテリーの消耗がとにかく激しいです。
SIPクライアントソフトによってはアプリを立ち上げておく必要があるので、たとえバックグラウンドで動作していても、半日もたたないうちにバッテリーが空になることもあります。
プッシュ通知に対応しているSIPアプリもありますが、プッシュ通知の動作が不完全なこともあるため、結局はバックグラウンドで動作させなければならないこともあり、微妙なところです。
そういうわけで、スマホをSIP内線としてバッテリーを気にせずに使うためには、モバイルバッテリーが欠かせません。
1-4. 内線通話中に携帯着信すると通話が切れる
SIPクライアントソフトによっては、内線通話中に携帯着信(090、080など)があると、そちらが優先されてしまい、内線通話が切断されてしまうことがあります。
このことがネックでスマホのSIP内線化に踏み切れない、という会社様も少なくありません。
このように、SIP内線としてのスマホの内線化には、なかなか期待するような進展が見られない状況が続いているわけです。
しかし、各ビジネスフォンメーカーの努力により、上記のようなSIP内線とは異なる、新たなアプローチによって、スマホを内線として活用するための機能が充実してきています。
2. 定額通話を活かした形でのスマホ内線化へとシフト
会社で利用している携帯やスマホでは、定額通話のプランに入ることが当たり前になってきています。
SIP内線ではなく、この定額通話を活かした方法でのスマホ内線化へと、シフトしていっているのが今の状況です。
というわけで、順番に説明していきましょう。
2-1. 定額通話プランを利用
ビジネスフォンの内線同士の通話は無料です。
スマホを内線化したときに同じように無料で通話できるように、定額通話プランにはいることをおすすめします。
携帯・スマホの定額通話プラン
キャリア | 定額通話プラン | 料金 | 条件 |
au | カケホ | 2,700円 | 「誰でも割」加入 |
ドコモ | カケホーダイ | 2,700円 | 2年契約時 |
ソフトバンク | スマ放題 | 2,700円 | 2年契約時 |
ワイモバイル | スーパーだれとでも定額 | 1,000円 | スマホプランS/M/L加入時 |
一方、固定電話の定額通話プランは下記のとおりです。
固定電話の定額通話プラン
キャリア | 定額通話プラン | 1ch/料金 | 条件 |
KDDI | ビジネス通話定額 | 900円 | 同一法人名義 |
ソフトバンク | ホワイトライン24(アナログ回線) | 500円 | おとくライン |
ソフトバンク | ホワイトライン24(INS64回線) | 1,000円 | おとくライン |
この定額通話プランを利用して、スマホを内線として活用するわけです。
では、ここからどのようにしてスマホを内線化するのでしょうか。
2-2. ビジネスフォンの電話回線にはナンバーディスプレイ契約が必須
スマホ~ビジネスフォン間の内線通話は、ビジネスフォンに収容された電話回線(=外線)をつかって行います。
外線を使って通話をするので、ぶっちゃけてしまうと、実際には内線通話ではないんですよね。
ではどうやってスマホとビジネスフォンで「内線通話」を行うのか?
そこで「ナンバーディスプレイ」の出番となるわけです。
2-2-1. ナンバーディスプレイでスマホの電話番号を識別し、内線番号と紐付けする
ナンバーディスプレイを契約すると、かかってきた相手の電話番号がわかるようになります。
このナンバーディスプレイの機能を利用します。
ビジネスフォンの短縮(電話帳)に、内線化したいスマホの携帯電話番号を登録し、内線番号と携帯番号を紐付けします。
内線として紐付けされたスマホからビジネスフォンの電話回線(ナンバーディスプレイ契約あり)に電話をかけると、内線300としてビジネスフォンにアクセスすることになります。
しかし、このままではまだ不十分です。
2-3. スマホに専用アプリを入れて内線ライクな使い方に
スマホからビジネスフォンに内線としてアクセスするたびに、いちいち電話番号をダイヤルしていては、まだまだ内線としての使えているとはいえません。
スマホを内線ライクに使えるようにするための専用アプリが、ビジネスフォンを販売している各メーカーから用意されています。
iOSなら「App Store」から、Androidのスマホなら「Google Play」からアプリをダウンロードしていつでも入手できます。
このアプリをスマホに入れることで、ぐっと内線ライクな使い方ができるようになります。
アプリを使用せずに会社の内線を呼び出そうとすると、次のような操作になります。
- 会社の電話回線(外線)にダイヤルする
- ビジネスフォンがスマホの番号を識別し、一次応答する
- 呼出したい内線番号をダイヤルする
- 内線番号を呼び出す(液晶画面にはスマホの内線番号が表示される)
一方、アプリに設定を登録した状態であれば、内線番号をダイヤルするだけでOKです。
- アプリから呼出したい内線番号をダイヤルする
- アプリで自動的にダイヤル内容を変換して発信する
- 内線番号を呼び出す(液晶画面にはスマホの内線番号が表示される)
やっと内線らしい動きができるようになりましたね。
スマホ内線から会社のビジネスフォンにアクセス、そこから会社の電話回線(外線)を使って発信することができます。
- アプリから呼出したい外線番号をダイヤル
- アプリで自動的にダイヤル内容を変換して発信する
- 会社のビジネスフォンの外線を捕捉し、相手先へ発信する(相手には会社の電話番号が通知される)
スマホ内線でも会社の電話機と同じように外線発信ができるようになりましたね。
2-4. 会社の内線からは内線番号をダイヤルするだけでスマホ内線を呼び出せる
スマホ内線からの内線と外線への発信については、アプリを入れることで内線らしい動きになりました。
逆に会社の内線からスマホ内線にかける場合は、スマホの内線番号をダイヤルするだけでかけることができます。
- 内線電話機の受話器を上げて、スマホの内線番号をダイヤルする
- ビジネスフォンの設定で、スマホの内線番号を自動的に携帯番号に変換して外線発信する
- スマホ内線に着信する(スマホには会社の電話番号が通知される)
これでスマホと会社の内線のお互いが、内線番号をダイヤルするだけで呼び出すことができるようになりましたね。
2-5. アプリのバッテリー消費が少ない
SIPクライアントソフトに比べて、このタイプの専用アプリはバッテリーの消費電力が少なく済みます。
もとからスマホに入っている電話機能を少し拡張した程度のアプリとなっているため、SIPクライアントソフトのように半日でバッテリーが切れてしまうようなことはありません。
2-6. 内線通話中に携帯着信することがないので、内線通話が切れることがない
SIP内線のような無線LANや4G/LTEなどのネットワークを経由した通話ではなく、携帯電話網を使った通話なので、内線通話中に携帯着信して通話が切れることはありません。
3. 各ビジネスフォンメーカーのスマホ内線
携帯電話網を使ったスマホ内線での運用ができるビジネスフォンとメーカーについて紹介します。
NEC
- ビジネスフォン:UNIVERGE Aspire UX
- スマホ内線アプリ:SmartFMC Pro
- 対応OS:iOS/Android
SAXA(サクサ)
- ビジネスフォン:PLATIAⅡ Standard/Professional/Ultimate
- スマホ内線アプリ:MLiner(エムライナー)
- 対応OS:iOS/Android
沖電気
- ビジネスフォン:CrosCore2 S/M/L
- スマホ内線アプリ:MLiner(エムライナー)
- 対応OS:iOS/Android
Panasonic(パナソニック)
- ビジネスフォン:IP OFFICE SⅡ/MⅡ/LⅡ
- スマホ内線アプリ:MLiner(エムライナー)
- 対応OS:iOS/Android
最後に
今回紹介したスマホを内線化する方法には、次のようなメリットがあります。
- 携帯電話網を利用して通話をするので、通話品質が高い
- 携帯電話網での通話なので、SIP内線のように携帯着信で通話が切れることがない
- 携帯電話網を利用するので、スマホ用の無線LAN(Wi-Fi)を構築する必要がない
- 内線アプリのバッテリー消費電力が抑えられていて実用的
スマホを内線として活用する方法は、まだまだ混沌としている部分もありますが、今回紹介した方法はかなり安定した運用ができ、導入もお手軽でおすすめです。
最後までご覧いただきまして、ありがとうございます。