2025年にPSTNからIP網へ完全移行することで、メタルの電話回線であるアナログ回線とISDN回線(INS64回線、INS1500回線)は【メタルIP電話】へと生まれ変わります。
2025年にPSTNで利用している全ての固定電話の回線が、すべてIP網に切り替わるわけですが、情報が錯綜していて、いまひとつ内容がわかりにくい、という方も多いのではないでしょうか。
【Public Switched Telephone Networks】の略で、日本語でいうと【加入電話回線網】のことです。
というわけで、いわゆる2025年問題の一つである、電話回線のIP網への移行について順番に説明していきたいと思います。
なぜ「2025年」に電話回線をIP網へ移行するのか?
そもそも、なぜ「2025年」に電話回線がIP網へ移行することになったのでしょうか?
別に移行しなくてもいいんじゃないの?
という意見もあるかと思いますが、どうしても2025年に移行しなくてはいけない理由があるのです。
PSTN交換機の維持限界が「2025年」
PSTNのコア部分に接続されている電話交換機には、大きくわけて4つの種類があります。
加入者交換機とは、加入者が使用する端末に実際に接続することになる、一番ユーザー側に近い電話交換機のことです。
中継交換機とは、複数の加入者交換機と相互接続交換機の間を中継するための交換機のことです。
信号交換機とは、各種交換機(加入者交換機、信号交換機、相互接続交換機)の電話の各種信号を制御する交換機のことです。
相互接続交換機とは、他事業者と接続するための交換機のことです。
これら4種類ある電話交換機のうち、【中継交換機】と【信号交換機】が2025年に維持限界を迎えることになります。
中継交換機は2015年に、信号交換機は2003年に販売がすでに終了しており、新たな機種を製造するということもありません。
現在では、ひかり電話などのIP電話サービスへの移行がすすんでいることから、PSTNの電話回線の利用者が減少し、PSTNの交換機が余っている状態にあります。
この余っている交換機を予備機にまわしてやりくりした結果、維持限界が「2025年」になるだろう、ということなのです。
2025年初頭にPSTN(交換機)からIP網(ルータ)へ完全移行
2025年には、PSTNからIP網へと完全に移行するのに伴い、PSTNを構成している交換機は一部を除き廃止されます。
交換機の代わりには、IP網を構成するためのルータへと置き換わります。
【加入者交換機】は【メタル収容装置】として流用し【メタルIP電話】を提供
PSTNで運用していた【加入者交換機】は、IP網へと移行後は【メタル収容装置】として流用します。
流用された【メタル収容装置】には、【メタルIP電話】を収容することになるのですが、ではこの【メタルIP電話】とは一体なんなのでしょうか。
【メタルIP電話】とは?
メタルIP電話とは、現行の電話回線と同じように「メタル線」で供給されるIP網を使った電話回線サービスです。
メタルIP電話の特徴
メタルIP電話は今までと同じ「メタル線」で提供されるため、基本的に現在利用しているアナログ回線やISDN回線(INS64回線、INS500回線)と同じ接続で、同じ端末を利用することができます。
局給電にも対応しているため、今までと同じようにメタル線から電力の供給を受けることができます。
たとえ停電になったとしても、停電対応電話機などを接続していれば、局給電によって電話が使えるので安心ですね。
メタルIP電話は、PSTNの電話回線と違って、固定電話への通話料金は距離に関係のない全国一律の料金となっています。
- 全国一律:9.35円(税抜8.5円)/3分
一律料金となることから、現行の電話会社を選択できるサービス「マイライン/マイラインプラス」は廃止されることになります。
メタルIP電話の月額基本料金は、現状のPSTNのメタル回線と同じ月額料金で提供される予定です。
個人的には、そこはもっと安くできるんじゃないの?と思うんですけどね。
現状のPSTNの電話回線でよく使われる基本的なサービスについては、メタルIP電話でも同じように継続して利用可能です。
メタルIP電話でも利用できる基本的なサービス
- ナンバーディスプレイ
- キャッチホン
- ISDN通話モード
- 公衆電話
逆に利用率が低いオプションサービスについては容赦なく廃止、ということになります。
メタルIP電話では利用できない廃止されるサービス
- ビル電話
- 着信用電話
- 支店代行電話
- 優先放送電話接続電話
- ピンク電話
- 短縮ダイヤル
- キャッチホン・ディスプレイ
- ナンバー・アナウンス
- でんわばん
- トーキー案内
- 発着信専用
- ノーリンギング通信
- 二重番号
- トリオホン
- なりわけ
- 114(お話中調べ)
- 空いたらお知らせ159
- ナンバーお知らせ136
- ISDNディジタル通信モード
現状のPSTNの電話回線では、NTT東日本/西日本で取得した電話番号からのみ、他社への番号ポータビリティが可能となっています。
それ以外のキャリアで取得した電話番号からは、他社への番号ポータビリティはできません。
メタルIP電話では、携帯・スマホと同じように、どの電話番号でも移行可能な双方向の番号ポータビリティが可能になります。
メタルIP電話は2024年初頭(1月)からサービスが開始され、契約についても自動で移行されます。
使っている端末もそのまま流用できるため、基本的には何もする必要がありません。
PSTNからIP網へ切り替わる電話回線の種類
PSTNで使われている電話回線には、次の3つの種類があります。
これら3種類のPSTN電話回線が、2025年にIP網へ完全移行されることになります。
この3つの電話回線のうち、ISDNサービスに属する「INS64回線」と「INS1500回線」については、2025年のIP網への完全移行よりも早い段階で、一部のサービスが利用できなくなることが確定しています。
ISDNの【ディジタル通信モード】が2024年に終了
ISDNの通信モードの一つである、【ディジタル通信モード】がIP網への移行へ先立って、2024年初頭に終了します。
ISDNの3つの通信モード
ISDNサービスの電話回線である、INS64回線やINS1500回線には、次の3つの通信モードがあります。
一番よく使われるのがこの通話モードです。
Bチャネルを使って、音声通話をするときに、この通話モードを利用します。
64kbps(あるいは128kbps)でデータ通信を行うときに使用するのが、このディジタル通信モードです。
- 64kbps通信時はBチャネルを1チャネル消費
- 128kbps通信時はBチャネルを2チャネル消費
ディジタル通信モードは、主にEDI、POSレジ、CAT端末、警備端末、G4FAXなどで使われています。
Bチャネル(64kbps)や、普段は制御用で使用するDチャネル(16kbps)を使って、パケット通信を行う時に使用するのが、このパケット通信モードになります。
パケット通信は、NTTコミュニケーションズが提供する「パケット通信サービス(INS-P)」を契約することで利用できます。
- Bチャネル(1チャネルごと)のパケット通信:月額3,500円(税抜)
- Dチャネル(1チャネルごと)のパケット通信:月額1,000円(税抜)
ISDNのこの3つの通信モードの中で、一足早くサービスが終了するのが、
「ディジタル通信モード」
なのです。
なぜ「ディジタル通信モード」が終了するのか?
「通話モード」や「パケット通信モード」は引き続き使えるのに、なぜ「ディジタル通信モード」だけが終了するのでしょうか?
IP電話はパケット通信のため、データの遅延や欠落が起こりやすいため
PSTNからIP網へ移行すると、データの送受信はパケットで行われることになります。
パケットに変換されたデータは、通信状況によっては、データが遅延したり、あるいは欠落したりすることがあります。
メールやファイルなどのデータをIPネットワーク上で通信する場合は、データが遅延あるいは欠落しても、エラーチェックを行って足りないデータの再送を促し、最終的に元のデータに復元することが可能です。
なぜなら、メールやファイルなどのデータの送受信では、「リアルタイム性」を求められていないからです。
では、音声データの送受信についてはどうなのでしょうか。
音声データの送受信では、音声を完全に復元することももちろん大切なのですが、一番重要なポイントとなるのが「リアルタイム性」です。
音声のやりとりにおいては、まずお互いの会話が「リアルタイム」に成り立たなければなりません。
いちいち音声パケットを遅延や欠落せずに、完全に復元していては、どうしても時間差がでてきてしまいます。
しゃべってから実際に相手に声が届くのが、10秒、20秒たってから、というようなことでは、お互いの通話が成り立つわけがありませんからね。
というわけで、リアルタイム性が優先されるIP電話では、データの欠落が顕著になりやすくなるため、従来のPSTNのISDN回線のように、安定性の高い通信を確保することが難しいのです。
ディジタル通信モードの代替案が喫緊の課題
ディジタル通信モード終了にあたって、それに変わる代替案が喫緊の課題となっています。
ディジタル通信モードの利用は約15万契約(2016年3月末時点)
NTT東日本/西日本のISDN回線(INS64回線、INS1500回線)の契約数は、2016年3月末時点で、約256万契約となっています。
他の通信事業者のISDN回線と合計すると、約337万契約です。
そのうちディジタル通信モードの利用推計数は、約15万加入者といわれています。
この15万加入者は、次のような用途でディジタル通信モードを利用しています。
- EDI(電子商取引)
- POSレジ(販売情報管理システム)
- CAT端末(信用照会端末)
- 警備端末
- G4FAX
- 企業内WAN
- 銀行ATM
- ビル管理・エレベーター監視
- ラジオ放送
中でも一番問題となっているのが「ED(電子商取引)」です。
インターネットEDIへの移行を推奨しているが・・・
ISDNのディジタル通信モードの代替案として、インターネットEDIへの移行が推奨されています。
しかし、次のような理由からインターネットEDIへの移行は難しいとの見解のほうが強いようです。
- PSTNの電話回線ありきで、インターネットでの利用が想定されていないEDIもある
- 業界ごとにEDIのプロトコルが異なる
- インターネットEDIへ移行するコスト、あるいは運用コストが高くなる
どうやら「現状維持」が一番望ましい、といったところでしょうか。
【メタルIP電話上のデータ通信】のサービス提供で対応
NTT東日本/NTT西日本が、IP網移行後の電話回線「メタルIP電話」でも、ISDNのディジタル通信モードと同じようにデータ通信ができるサービス【メタルIP電話上のデータ通信】を提供することで、現状維持が可能になるようです。
まだまだ動作上に課題があるようですが、2024年初頭にISDNのディジタル通信モードが終了しても、とりあえずは一安心、といったところでしょうか。
ただし、【メタルIP電話上のデータ通信】は、あくまでも「一時的な補完策」なので、基本的にはインターネット利用への移行が前提である、ということを肝に銘じておきましょう。
ディジタル通信モードを使っているかも?
ISDN回線(INS64回線、INS1500回線)を契約していて、なんか電話以外でも使ってるような、使ってないような・・・と、よくわからない場合は、NTT東日本/NTT西日本から送られてくる請求書を確認しましょう。
その中に「INS通信料」という項目に料金が記載されているのであれば、ディジタル通信モードを利用していることになります。
2025年までのPSTNからIP網への移行スケジュール
現状のPSTNから、2025年の完全IP網化への移行スケジュールについては、下記の通りとなっています。(ざっくり)
PSTNからIP網への移行スケジュール
2017年 | 2017年秋~ ユーザー周知開始 |
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2018年 | ||
2019年 | ||
2020年 | ||
2021年 | 2021年初頭~2025年初頭
PSTN→IP網へ移行 |
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2022年 | ||
2023年 | ||
2024年 | 2024年初頭(1月) メタルIP電話サービス開始 メタルIP電話上のデータ通信提供開始 契約を一斉に自動切替 |
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2025年 |
2025年初頭にはIP網への移行が完了する予定になっていますが、メタルIP電話は2024年初頭(1月)にはサービスの提供が開始されます。
最後に
いろいろと情報が錯綜している2025年のPSTNのIP網への完全移行ですが、まとめると次のとおりです。
- 2025年にPSTNの交換機が「維持限界」を迎えるため、IP網への移行が必須
- IP網へ移行しても、メタル線で提供される【メタルIP電話】で今と同じ端末が使える
- メタルIP電話の月額料金は現状と同じ、通話料金は全国一律8.5円/3分(税抜)
- 基本的なサービス(ナンバーディスプレイなど)は継続利用可能
- オプション的なサービスは廃止
- メタルIP電話は2024年初頭(1月)に開始、契約は自動移行、宅内作業不要
- ISDN回線は「通話モード」は利用可能だが、「ディジタル通信モード」は廃止
- ディジタル通信モード廃止については【メタルIP電話上のデータ通信】で補完
巷では、2025年問題について「ISDNがなくなる」とか「全部IP電話になる」など、様々な意見がみられますが、思っていたよりも影響が少ない形での移行内容となっていることがわかりますね。
ただ、基本的には今のうちから、ひかり電話などのIP電話サービスへの変更や、ISDNのディジタル通信モードからインターネットなどのIPネットワークへの移行をすすめておけば、より安心できることでしょう。
check!NTTひかり電話
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